雪 (1)






   1

戸の外で

雪を踏む人の足音がする

私は息を止めて耳を澄ます

そしてすぐに失望する

誰も来ない誰れも来はしないこんなに雪が降っていては

哀れな私よ頼ることを止めよ

力を出して一人になれ

ひとりぽっちでペンを執れ目の前のペン差しから

たよやかな細いペンを紙にのせて

自分の中のまっ白な空っぽの時間へ入って行け

見たことのない誰れも知らない

超現実な白の世界へ



   2

せっかちな私のペンは

原稿紙の繊い梯子に引っかかる

跳ねたペンがハッとさせる紫の小さな花をちりばめる

白い白い原稿紙に!

原稿紙の天へ天へ無限に這いのぼるきざはしに

可憐なつる花をからませる



   3

戸の外に

また人の気配を私は感じる

私は惑う

耳に澄む昔の音が

しめやかな雪の中に出て遊ぶので……



玉一詩集