ある貧しい森番の幻想 ※ 森の中に入る細い段々径は、少し花の匂いがする。 かすかなひとの香がそれに交り 明るい午後の日ざしが、森の入口の枯れた芝草の上で 休んでいる。 段々径を僕は登り、遠慮深く森を覗く。 森の中の幹立ちちは一斉に樹立ちを揃え 葉を揺すって密語する ――おや? 彼はまた来たぞ…… 樹は高く梢を交え、さりがなく一心に耳を澄ましている―― そのとき、また、あの気儘な陽が訪れ こともなく斜めに、次第に明るく森の中を梳きながら 滑らかな下草を、傍らの古い塚を 椿の葉を、花を、染めつくし染めのこし はらはらと音もなく揺れる森の中で いっときに鳴き出す梢の小鳥。 樹は向き向きに高い虚空を指しながら 森の中はひろびろと それは素晴らしい天然のサロン! 静かに明るむ森の中で 太い幹の傍らで、僕は呟く…… ――あの娘(ひと)はいったいどこにかくれているのだろう。 だがいまはもう焦らずともよい あのひとはきっと現れるだろう 思い、思いに微妙な陽ざしに衣装された幹、幹の目の前の 影間から。 きっと現れるだろう 森の向こうの入口から、次第に明るい森の中へ―― ともすると快活に 華やかな紅裳の裾を翻しながら 軽やかな白い沓なんか穿いたりして! ※ 森の中から、昏れ近い菫色の空が見える。 僕は歩き疲れ、焦りながら足を運ぶ。 昏れる前のサロンを後にして、細い杖を鳴らしつづける。 鳥達はおどろいて一度に飛び立つ 黄色の空の中へ 茜映えた雲の端へ ひろがり、寄り添い、傾いて 鳴きながら一散に天翔る。 |