汽車を待つ間に 総社駅から清音駅まで 高梁川の高い堤防道路の下 山裾を線路づたいに、私は歩く。 若干の体力と、昏れ近い村落の澄んだ色調がかもし出す 旅愁にかられ 私は歩く、まるで十九歳の青年のように! 私は歩く 歩きながら私は呟く……単線の線路はなんて静かなんだろう ひと一人会わぬ 整備された山裾の鉄路の直線。 私は歩く、歩きながら私は次第に疲れる。 枕木につまずきながら 気の遠くなるような重量に耐え緩みなく伸長する 強い鉄路の意志に気押されながら 私は歩く、快よい疲労を覚え もののけに憑かれたように私は歩く。 ああ夢見がちな私の望見。 夕陽は高梁川の高い堤防の向うに沈みかけ そこから直線に淡いバラ色の光線を斜かいに投げかけてくる。 暮色が薄く沈みかける高い堤防かげに鮮やかに斜線を画し 堤防下の民家の屋根を、樹の梢を、竹薮の笹を宙に浮き立て 私を、線路沿いの片山の雑木林を朱々と染めてくる。 歩く。歩く。私は歩く。 歩きながら私は息吹く、――自然はなんて美しいんだろう 右に、左に目を上げながら私は歩く まるで光と影のお花畑の谷底を行くような、独りぼっちの よろこびに昂ぶりながら 私は歩く 消えやすいひとときの自然の階調の中に怪しく溶け込んだまま…… |