姉の家






窓下に小川のせせらぎが聞えてくる

子供のない姉の家の

きちんと片付いた静かな部屋で

膝を揃え私は子供のように座っていた。

今のいま、金がないと困るのだ、と思いながら

借りる者のよるべのない哀しみに悶えながら

私は思う。

食べる物がなく、薄暗い屋根の下で、私の帰りを待っている

肉の落ちた妻の顔を。

もうすぐに産まれる赤子のことを。



消え入るような焦燥のひととき

昂ぶって姉は投げつけて来る。

「もっと真面目に働かなければ! ろくでもないものばかり

書いていないで……ほんとうに! お前一人だけではないからね……」

「――ええ……働くんです……これからは働くんです、ですから……」



ぢんぢん明るんで来る鮮明な意識のなかで

近々と私は見る

世帯にやつれた肌目の荒れた姉の素顔を……

金を出す節高い姉の指を……





玉一詩集